次世代インフラ
No.1FRP筋を用いたコンクリート構造体への用途展開の可能性について
概要
一般にコンクリートは圧縮に強く、引張に弱いといった特徴があります。引張への弱点を補うために鉄筋などの補強筋が埋設されています。ご存じの通り鉄は錆びます。コンクリート中の鋼材は塩害やひび割れによる水分の侵入により腐食し、それにより、コンクリート構造体の劣化が進行して寿命が短くなります。そこで、高耐食性を有するFRP筋に着目し、コンクリート構造体における鉄筋代替を目的に腐食しない高寿命、軽量で安価な新規FRP筋の開発と適応に向けて研究開発をしています。新規FRP筋として、成形速度が毎分1mと超高速な引抜成形によってFRP筋の開発する技術を確立し、新規FRP筋実証実験まで行っています。加えて、現場重合型の熱可塑性エポキシ樹脂を母材としたCFRTP筋を用いたコンクリート構造体への適応も検討しています。
FRP筋の連続高速成形
引抜成形により鉄筋代替となるコンクリート用FRP筋の作製を目的に腐食しない高寿命、軽量で安価なFRPロッド材の高速成形を目指し、研究開発を行っています。
図1:従来型の引抜成形と新技術による引抜成形のモデル
図1に熱硬化性樹脂および現場重合型樹脂を用いた従来型の引抜成形と、我々が開発している熱可塑性樹脂を用いた新技術による引抜成形のモデルを示します。従来技術は、主剤にモノマーを用いており硬化反応や重合反応が必要となるため、樹脂の反応速度と金型の大きさによって成形速度が決定し、成形速度の高速化が難しいといった課題があります。
一方、我々が開発している新技術は、押出機により樹脂ペレットを溶かし、連続的にロービング繊維に含浸させる溶融含浸法を採用しているため反応をともないません。また、ロービングに撚りを掛けながら引抜くことで、繊維の毛羽立ちや糸切れを抑えることと、繊維の高い収束性を得ることが可能となります。
図2:引抜成形の様子
そのため、秒速1mといった高速成形が可能となります。材料は、マトリクス樹脂に安価で耐薬性に優れるポリプロピレン(PP)、繊維にガラス繊維(Glass Fiber: GF)、バサルト繊維(Basalt Fiber : BF)を用いており、高い生産性と高いコンポジット性能を有したFRPロッドの開発に成功しました。本成形プロセスは撚りを加えながらFRPロッドを作製するためロッドを巻取る場合、巻取りと解撚を同時に行う必要があります。そこで巻取機を開発しました。本装置は、撚り方向と巻取方向のそれぞれ二軸で回転させることでFRPロッドを巻取ることが可能となります。
FRP筋を用いたコンクリート構造体の検討
沿岸部や凍結防止剤が多量に散布される地域では、過酷な塩害環境下のため鉄筋が腐食して、コンクリート構造体としての性能は早期に失われます。そこで我々は、補強材として高耐食性を有するFRP筋に着目し、コンクリート構造体への適用に向けて検討しています。また、補強材には鉄筋に加えてPC緊張材も代替品の対象としており、用途に合わせることができるように、新規FRP筋として、BFPP(バサルト繊維/ポリプロピレン)とCFRTP(炭素繊維/熱可塑性エポキシ樹脂)の2種類に注力しています。BFPP筋では、鉄筋の代替品として検討しています。
図3:BFPPを補強筋として用いたコンクリート梁の曲げ載荷試験
これまでに、鉄筋と比較するため、図3に示すコンクリート梁の曲げ載荷試験を実施した結果、鉄筋と同等の性能を有することを確認いたしました。さらに、BFPPは高耐食性の特長を有するため、コンクリート構造体の表面に埋設することが可能となり、大型床版での曲げ載荷試験も実施した結果、延性的な破壊挙動になることを確認いたしました。以上より、鉄筋への代替品としての適用が期待できると考えております。CFRTP筋では、PC緊張材の代替品として検討しています。
図4:緊張させたCFRTP筋の様子
図4に緊張させたCFRTP筋の様子を示します。この作業の後にコンクリートを打ち込み、数日後に緊張力を解放することによって、コンクリートに圧縮力がかかり曲げひび割れを抑制することができます。従来から鋼製のPC緊張材が用いられていますが、長期間の使用によって腐食することが重要な課題として挙げられていました。そこで、炭素繊維は高強度、高耐食性を有していることからPC緊張材の代替品として期待でき、研究開発を進めてます。CFRTP筋はこれまでに、駅のホーム柵や建築物の耐震補強などにおける社会実装が複数あり、コンクリート構造体に用いられるPC緊張材への代替品としての適用も期待しています。