次世代インフラ
No.5大型風力推進船を実現するためのFRPパネル帆の適用技術について
概要
船舶から排出される温室効果ガス削減の為、風力推進船の開発が各国で進められています。その中でも硬翼帆を用いた風力推進船は大きな削減効果が得られ、また天候や航路に応じて硬翼帆を容易に運用出来る利点があります。本研究では、硬翼帆に搭載するFRPパネルを効率良く低コストで製造する技術の検討や、FRPパネルを搭載した硬翼帆の性能評価を行い、実船建造に向けた基礎技術の構築を行いました。
船舶から排出される温室効果ガス低減技術の中で最も安全で効果的な方法は風力推進です。既に各種原理による風力推進船が建造されていますが、大幅な削減が見込めず悪天候時の運用に難があるなど課題があるのが現状です。本研究の硬翼帆を搭載した風力推進船は、展帆時の高さが約50m、幅15mの大型帆構造を搭載した8万トンクラスの大型船であり、搭載する硬翼帆の本数に比例して削減効果が得られ、また帆の伸縮機能によって悪天候時には帆推力をゼロ制御で安全に航海が出来る特徴があります。硬翼帆はFRPパネルで構成されています。FRPパネルは軽量で腐食しない特徴があるため海洋構造物への適用が今後大きく期待されていますが、製作コストが大きく特に大判FRPパネルは製造場所確保の問題で日本国内生産拠点が乏しいという課題があります。本研究では、本事業の基盤技術である連続成形技術を用いた帆FRPパネルの製造方法について検討を行いました。連続成形技術を用いることで、大型の成形金型の設置が不要となり、また連続で製造するため製造コストは大幅に削減が出来ます。帆FRPパネルの連続成形技術検討のポイントは、FRPパネルがサンドイッチ構造であるため、スキンとコアを連続で接着する技術の開発が必要です。本研究ではスキン、コア共に熱可塑性樹脂FRPを用い、予め連続成形で成形したスキン板とコア材(コルゲートやフォーム材)重ね合わせて加熱圧着により、サンドイッチパネルの連続成形の構想を行いました。
FRPパネルを社会構造物に搭載するためには、FRPパネル製造技術だけでは無く、パネル実装方法や構造物としての設計性能評価も重要です。本研究では、2014年に製作した陸上実証硬翼帆(高さ20m、幅9m)を用いて、風向、風速の変化に対して硬翼帆に実装した帆パネルの耐久性、風力推進帆としての空力性能試験を行いました。その結果、硬翼帆の空力特性は設計とほぼ同じ結果が得ることが出来たことから、実機硬翼帆は本結果を反映して設計を行いました。耐久性も問題は無く、2014年製作以降から本年2021年間の陸上暴露環境下で破損損傷は無く健全な状態を維持していることを確認しました。
本研究で基礎技術を検討したFRPパネル硬翼帆を搭載した大型風力推進船は、株式会社商船三井と株式会社大島造船所のプロジェクトにおいて第1号線を現在建造中で2022年に航海開始が予定されています。
ご参考
- (株)商船三井 プレスリリース(2019年10月3日):
「ウインドチャレンジャーが設計基本承認を取得~温室効果ガス削減を狙い「帆」をもつ日本初の大型商船実現へ~」
https://www.mol.co.jp/pr/2019/19074.html - (株)商船三井 ウインドチャレンジャープロジェクト紹介ページ
https://www.mol-service.com/ja/service/windchallenger
図1:大判FRPパネル材料の連続成形プロセスと大判サンドイッチパネル成形方法
図2:陸上実証試験機の空力特性試験結果
図3:大型貨物船に搭載する硬翼帆の組立作業(大島造船所:長崎県)