研究活動・成果

革新製造技術

No.14ナノ・ミクロレベルの信頼性評価技術の開発および基盤技術の材料評価を通じた研究成果

概要

革新材料を用いたアプリケーションの社会実装を進めるには、革新材料の変形/損傷/破壊/非破壊/耐久性/耐侯性挙動を明らかにする構造物マネジメント技術が欠かせません。

革新材料による次世代インフラシステムの構築、安全・安心で地球と共存できる数世紀社会の実現には、革新材料の社会実装を進め、革新材料の価値を社会全体に認知させなければなりません。革新材料の社会実装を進めるには、従来とは異なる様々な社会実装の姿に適用できる新たな構造マネジメント技術を開発しなければなりません。構造物マネジメント技術のナノ・ミクロレベルの信頼性評価技術では、革新材料の静的・疲労特性、耐候性および損傷・破壊機構の解明を実施しました。

炭素/ガラス繊維と熱可塑エポキシを用いた複合材料テンションロッドの信頼性評価

テンションロッドに求められる性能は主に引張特性です。そこで、炭素/ガラス繊維と熱可塑エポキシを用いた複合材料テンションロッドの温度環境下における引張試験を行いました。
引張試験には万能材料試験機を用い、1 mm/minのクロスヘッド変位制御で試験を行いました。評価部の長さは50 mm、試験片中央部にひずみゲージを貼付しました。試験温度は‐50 ºC、0 ºC、室温(23ºC)、50 ºC、80 ºCの計5段階を用いました。特に、50 ºC、80 ºCではロッドの評価部のみを加熱する特殊な加熱治具を用いました。
低温(‐50 ºC、0 ºC)および室温(23 ºC)では、応力-ひずみ関係は線形的な挙動を示し、高温(50 ºC、80 ºC)では、応力-ひずみ関係は非線形な挙動を示しました。引張弾性率は低温(-50 ºC、0 ºC)から室温(23 ºC)までは大きな変化がなく、高温(50ºC、80 ºC)で引張弾性率のわずかな低下が見られました。一方、引張強度は試験温度の上昇とともに線形的に低下する傾向が見られました。
複合材料テンションロッドの引張強度にもバラツキがあります。信頼性評価として、複合材料テンションロッドの引張強度のバラツキを評価しました。データの統計的なバラツキを評価するため、二母数ワイブル分布による評価を行いました。各試験温度でのワイブル分布を用いた複合材料テンションロッドの強度バラツキの評価結果を示します。複合材料テンションロッドのワイブル係数は非常に高い値を示し(炭素繊維のみの引張強度のワイブル係数は~10程度です)、強度のバラツキが小さいこと示しています。
また、デジタルマイクロスコープを用いた複合材料テンションロッドの破断面様相を示します。低温(-50ºC、0 ºC)では、同じ位置の近傍でほとんどの炭素繊維が破断し、炭素繊維コア部の破断面が平坦となっていました。本破壊は脆性的な破壊であると考えられます。高温(80 ºC)では、炭素繊維が長手方向の様々な箇所で破断し、炭素繊維コア部の破断面がより凸凹となっていました。延性的(非脆性的)な破壊であると考えられます。このように破断面の観察し、その破壊過程を明らかにしています。
本成果は複合材料テンションロッドを様々な社会実装の姿に適用できる評価結果であり、社会実装に貢献できる信頼性評価です。


温度環境下でのワイブル分析を用いた
複合材料テンションロッドの強度バラツキ評価

テンションロッドに求められる性能は引張特性ですが、局所的な部分では曲げや圧縮負荷が作用します。この局所的な負荷の結果として複合材料テンションロッドの引張特性を低下させる要因になります。そこで、複合材料テンションロッドの横方向圧縮試験、その場観察を用いた変形過程評価および変形過程の有限要素法解析を行いました。変形過程をより詳細に明らかにするため、デジタル画像相関法を用い、複合材料テンションロッドの横圧縮挙動を評価しました。横圧縮応力と変位の関係を示します。本関係より複合材料テンションロッドの横圧縮限界応力や限界変位が明らかとなりました。
また、複合材料テンションロッドの横圧縮負荷時のデジタル画像相関結果を示します。複合材料テンションロッドでは横圧縮負荷時に炭素繊維部の縦方向およびガラス繊維部と炭素繊維部との界面にひずみの集中が見られました。複合材料テンションロッドの横圧縮負荷時の破壊は本ひずみ集中部から発生し、炭素繊維部の縦割れおよびガラス繊維部と炭素繊維部との界面破壊となります。
さらに、横圧縮負荷時の有限要素法解析の結果を示します。実験での横圧縮応力と変位の関係およびデジタル画像相関でのひずみ集中の結果が再現できました。
本成果は、複合材料テンションロッドのより詳細な損傷・破壊機構の解明に役立ちます。


デジタル画像相関法を用いた複合材料テンションロッドの
横圧縮挙動評価

複合材料テンションロッドの横圧縮挙動評価で界面でのひずみ集中および破壊についての検討結果が示されました。また、複合材料テンションロッドを実構造物に適用する際には定着部が存在し、定着部からテンションロッドのガラス繊維部、界面を通して炭素繊維部に応力が伝達されます。複合材料テンションロッドでは界面挙動を定量的に評価することが重要です。そこで、複合材料テンションロッドの界面せん断特性にも着目した押し込み(プッシュアウト)試験も実施しました。
プッシュアウト試験の様相およびプッシュアウト試験後の試験片の状態を示します。プッシュアウト試験には卓上型材料試験機を用い、0.5 mm/minの変位制御で試験を行いました。また、界面せん断特性の温度依存性をペルチェ方式の加熱・冷却ステージを用いました。界面せん断(はく離)応力、界面せん断(滑り)応力と各試験温度での結果から界面せん断(はく離)応力、界面せん断(滑り)応力が温度の上昇とともに低下することがわかりました。本研究により、複合材料テンションロッドの温度環境下での界面せん断特性を評価できる試験評価技術が確立しました。また、本成果は、複合材料テンションロッドのより詳細な損傷・破壊機構の解明および界面特性を付与した強度・耐久性予測に役立ちます。


押し込み(ブッシュアウト)試験による複合材料テンションロッドの界面せん断特性評価

複合材料テンションロッドの長手方向の弾性率および強度が高い異方性を示す材料です。引張、曲げおよび横圧縮試験により複合材料テンションロッドの異方性は明らかになっています。一方、素材である炭素繊維も異方性を示す材料です。ナノレベルの評価技術として、素材、特に炭素繊維の異方性について検討を行いました。ナノインデンテーションによる構成素材の力学特性評価後の原子間力顕微鏡写真結果を示します。ガラス繊維および樹脂のナノインデンテーションを用いた局所的なインデンテーション弾性率は引張試験により得られる弾性率と近い値を示しました。一方、炭素繊維は引張試験では230 GPaの弾性率を示すのに対し、ナノインデンテーションを用いた局所的なインデンテーション弾性率は60 GPaとなりました。炭素繊維の横やせん断方向の低い弾性率(異方性)がインデンテーション弾性率に影響を及ぼしていることがわかりました。
本成果から研究を拡張し、現段階ではインデンテーション弾性率から炭素繊維の異方性弾性定数を求められるようになり、ナノテクノロジの材料評価技術への活用として学術的に社会に貢献しています。


ナノインデンテーションによる
構成素材の力学特性評価

テンションロッドを実構造物に適用する際には、テンションロッドの仕様・機能・性能上、大きな引張負荷が作用する構造物に適用されます。また、革新材料による次世代インフラシステムの構築では、数世紀社会の実現を目指しており、テンションロッドの引張長期耐久性に関する検討は欠かせません。そこで、基盤技術の材料評価として複合材料テンションロッドの疲労・クリープ特性を評価しました。
疲労試験には電気式油圧サ-ボ試験機を用い、荷重制御による疲労試験を行いました。荷重波形はサイン波、繰り返し周波数は10 Hzとしました。
クリープ試験には天秤式のクリープ試験機を用いました。
テンションロッドの繰り返し負荷に対する平均荷重(応力)や荷重(応力)振幅等の負荷仕様は実構造物により異なります。そこで、複合材料テンションロッドの疲労試験では最小荷重/最大荷重の比率(応力比)Rを変化させた疲労試験を行いました。複合材料テンションロッドの疲労試験での負荷応力-破断繰り返し数曲線を示します。応力比Rの増加に伴い、疲労限が上昇し、R = 0.7で40%程度、R = 0.9で60%程度となりました。複合材料テンションロッドの様々な負荷形態の異なる社会実装に対応した耐久性データを取得しました。
本成果から、複合材料テンションロッドの疲労限度線図を作成し、種々の予測式を用いることで試験実施していない応力比Rでの疲労限を見積もることができます。


炭素/ガラス繊維と熱可塑エポキシを用いた複合材料テンションロッドでの長期疲労特性評価

複合材料テンションロッドのクリープ試験での負荷応力-破断時間曲線を示します。クリープ試験は疲労試験での応力比R = 1.0での試験となりますが、横軸が破断時間となり、実構造物での複合材料テンションロッドの負荷時間と同じになります。加速試験の手法としては負荷荷重を大きくすることや試験温度を高くする方法があります。複合材料テンションロッドに加わる負荷荷重を変化させた試験での破断時間をプロットすることで、クリープ破断時間曲線が得られます。複合材料テンションロッドの様々な負荷形態の異なる社会実装に対応した耐久性データの一つになります。
本成果から、種々の予測式を用いることで複合材料テンションロッドの数世紀でのクリープ負荷に対して破壊しないかを見積もることができます。

 


複合材料テンションロッド/ロープの長期クリープ特性評価