革新材料
No.18PVA高強度繊維
概要
ポリビニルアルコール(PVA)はその分子中の水酸基による高い水素結合により、高強度の繊維の作製が可能です。その理論的強度や弾性率は炭素繊維と同等もしくはそれ以上となりますが、現実的には高い水素結合による紡糸性の低さから実現できていません。その実現により、PVAは炭素繊維やガラス繊維よりも比重が小さいため、新たな複合材料の強化繊維となり得ます。そこで、本研究では、水素結合を抑制するリチウム塩を添加した状態で紡糸し、欠陥のない高延伸繊維を作製し、繊維の高強度化を目指します。
ポリビニルアルコール(PVA)は水酸基を有した親水性の高いポリマーで、耐薬品性や耐アルカリ性といった特徴を有しています。また、水素結合による強い分子間相互作用により機械的強度に優れておりその繊維はセメント補強などの複合材料用途として用いられています。PVA繊維は分子鎖の配向度を高めることで、理論上、炭素繊維やガラス繊維に匹敵する強度や弾性率が得られます。有機繊維であることから比重が約1.3と炭素繊維よりも低く、ガラス繊維の約半分と、複合材料自体の軽量化が期待されます。具体的には風力推進船のFRP帆や風力発電ブレードなどに利用することが可能となれば、その重量を約2/3とすることができ、CO2の排出抑制などに寄与すると期待できます。
PVAの化学式
PVA繊維の配向性を高めることが困難な原因は、その強すぎる分子間水素結合です。紡糸時や延伸時には、この水素結合が障害となり、分子の配向を妨げます。そこで、我々はリチウム塩が水素結合を抑制することを見出したことを利用し、紡糸時にリチウム塩を添加することで欠陥のない繊維の作製を目指しました。その後、加熱延伸により高い配向度および結晶化度を達成させることで高強度高弾性率の繊維の開発を目指します。
PVAは重合度1700、けん化度99.9 mol%の完全けん化型PVAを用いました。16 wt%に調整したPVA水溶液にLiBrやLiIを水酸基に対して0.1モル比で添加しました。紡糸は湿式紡糸で1次延伸倍率4倍の条件で行いました。その後、繊維の洗浄、2次延伸(熱延伸)、熱処理を行い評価しました。加熱延伸時には、Pure PVA繊維では5倍の延伸で破断しましたが、LiI PVA繊維では8倍に延伸しても破断しませんでした。また、加熱延伸繊維の2D-WAXD解析から、95%程度まで配向度が大きく向上していることが分かりました。引張試験の結果、未延伸繊維と比較して延伸繊維では引張強度、ヤング率ともに約4倍と大幅な上昇がみられました。今後はさらに紡糸条件の最適化により延伸倍率や結晶化の向上を行い、まずはガラス繊維並みの力学特性を持つ繊維の開発を目指します。
加熱延伸PVA繊維
(リチウム塩無添加繊維(延伸により破断)
リチウム塩添加繊維(破断せず)